逆走台風とは、一般的な台風の進路とは異なり、日本付近で東から西へ向かうなど、通常とは反対方向に移動する台風を指す報道上の呼び名だ。気象庁が定めた正式な台風の分類名ではない。
そもそも、台風が日本へ接近するときの進路は一方向に決まっているわけではない。低緯度では貿易風などの影響で西寄りに進み、日本付近まで北上すると偏西風に流されて東寄りに進路を変えるケースが多い。
このため、日本列島を東から西へ横断するようなコースは珍しい。
通常の台風と逆走台風を比較| 比較項目 | 通常の台風 | 逆走台風 |
|---|---|---|
| 主な進路 | 南から北上し、北東へ転向するケースが多い | 日本付近で東から西へ進むことがある |
| 主な影響要因 | 太平洋高気圧や偏西風など | 高気圧、寒冷渦、上空の風の複雑な配置 |
| 進路の特徴 | 比較的典型的な北上・転向型 | 西進、ループ、複雑な転向など |
| 予報上の注意 | 進路や勢力の変化に注意 | 進路予測が変化する可能性にも注意 |
| 防災上の対応 | 大雨・暴風・高潮への備え | 進路に加えて広域の雨風や河川の状況も確認 |
重要なのは、逆走台風だからといって必ずしも勢力が強いわけではないという点だ。
進行方向が珍しいことと、台風の強さは別の問題である。弱い台風でも大雨をもたらす場合があり、反対に異例の進路でも暴風の影響が限定的な場合がある。
「東から西へ進む」のはなぜ珍しいのか台風の進路を決める大きな要因は、台風自身が持つ風だけではなく、周囲の広い範囲に吹いている上空の風だ。
台風は、この周囲の風に流されるように移動する。そのため、太平洋高気圧の位置や偏西風の蛇行によって、通常とは異なる方向へ進むことがある。
特に夏場は偏西風が北へ移動し、日本付近の上空の風が弱まることもある。こうした状況では、台風が複雑な進路をたどる可能性が高まる。
2026年の台風15号は、まさにこうした大規模な大気の流れが重なった事例だった。
【逆走台風はなぜ起きる?】仕組みを気象学から解説

逆走台風の発生背景を理解するには、3つの気象要素を押さえる必要がある。
1. 偏西風の蛇行によって台風を動かす風が変わる偏西風は、中緯度の上空を西から東へ吹く強い風だ。
通常、日本付近まで北上した台風は、この風に流されて東寄りへ進路を変えることが多い。
しかし、偏西風が大きく蛇行すると、台風を東へ運ぶ流れが弱くなったり、通常とは異なる風向きになったりする。
2026年夏について、気象庁は日本付近で偏西風が大きく蛇行し、日本の東海上で南北2つに分かれて流れたと分析している。
つまり、通常の進路を生み出す大気の流れそのものが変化していたのだ。
2. 寒冷渦が台風の進路を変える逆走台風を理解するうえで欠かせないのが「寒冷渦」だ。
寒冷渦とは、上空の中層から上層に寒気を伴う低気圧性の渦のこと。地上の天気図だけでは捉えにくい場合もある。
寒冷渦の周辺には反時計回りの風の流れがあり、近くに台風が存在すると、両者が相互に影響し合う。
この相互作用によって、台風の移動方向が変わり、通常とは異なる進路をたどることがある。
2018年の平成30年台風第12号では、寒冷渦と台風の相互作用が特徴的だった。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究解説でも、台風と寒冷渦の相互作用が異例の進路を生み出したことが詳しく説明されている。
3. 太平洋高気圧などの勢力と位置関係太平洋高気圧も台風の進路を左右する重要な要素だ。
台風は高気圧の勢力が強い場所を簡単には通過できず、その周囲の風に沿って移動する傾向がある。
高気圧が通常と異なる位置に張り出すと、台風の進路も変化する。
2026年の場合、気象庁の分析では、日本の東海上に停滞した優勢な高気圧と、日本の南海上に形成されたモンスーンジャイアの間を台風15号が西進したとされる。
モンスーンジャイアとは、季節風に伴う広い範囲の低気圧性の循環だ。
ここに複数の上層寒冷渦が加わったことで、台風15号は通常とは異なるコースをたどった。
逆走台風が発生する仕組みを整理- 偏西風が大きく蛇行する
- 日本付近の上空の風の配置が変化する
- 寒冷渦が南下して台風に影響する
- 高気圧と低気圧の位置関係によって西向きの流れが生まれる
- 台風が通常とは異なる進路をたどる
これらは単独で働くとは限らない。複数の気象条件が重なったときに、特異な進路が生まれる。
【2026年最新】台風15号チャンホンの進路と茨城県南部への上陸
2026年の逆走台風を語るうえで中心となるのが、台風15号(チャンホン)だ。
この台風は日本の東海上で北寄りに進んだ後、西寄りへ進路を変え、関東地方に接近した。
2026年8月5日から12日までの経緯台風15号は、8月5日午後3時にウェーク島近海で発生した。
その後、日本のはるか東の海上へ北寄りに進み、次第に進路を西寄りへ変更。8月11日には関東地方へ接近した。
ウェザーニュースなどの報道によると、同日20時ごろ、茨城県南部に上陸した。
茨城県への台風上陸は、1951年の統計開始以来初めての出来事だった。
上陸後も台風は西寄りに進み、8月12日午前9時には日本海で熱帯低気圧に変わった。
台風15号の主な経過| 日時 | 出来事 | 注目ポイント |
|---|---|---|
| 8月5日15時 | ウェーク島近海で発生 | 台風15号チャンホンが誕生 |
| 8月上旬 | 日本の東海上を北寄りに進む | 一般的な北上後、西寄りへ転向 |
| 8月11日午前 | 関東・東北に接近 | 茨城県方面への上陸可能性が高まる |
| 8月11日20時ごろ | 茨城県南部に上陸 | 1951年以降、茨城県への初上陸 |
| 8月11日夜 | 関東平野を西進 | 強風や大雨に警戒が必要な状況 |
| 8月12日9時 | 日本海で熱帯低気圧に変化 | 台風としての活動を終了 |
| 8月13日〜14日 | 令和8年8月千葉豪雨 | 別の大気の流れによる記録的豪雨が発生 |
今回の特徴は、単純に台風が東から西へ進んだことだけではない。
日本の東海上から関東地方に向かって西進し、これまで台風の上陸が記録されていなかった茨城県に上陸したことが大きな特徴だった。
気象庁の2026年9月1日の異常気象分析検討会では、北側の強い高気圧と南側のモンスーンジャイアの間の流れに沿って西進したこと、さらに南下した複数の上層寒冷渦の影響を受けたことが原因として挙げられている。
今回の進路は、単なる偶然の蛇行ではなく、日本付近の大気全体の配置によって生じたものだった。
【過去の逆走台風】平成30年台風第12号との共通点と違い
2026年の台風15号より前に、日本で逆走台風として広く知られた代表的な事例が、2018年の平成30年台風第12号だ。
この台風も、通常の台風とは異なる進路で日本列島を横断した。
平成30年台風第12号はどのように逆走した?2018年7月、台風第12号は日本の南海上で発生した。
その後、北東へ進み、小笠原諸島付近を通過。進路を変えて西へ向かい、7月29日未明に三重県伊勢市付近に上陸した。
さらに近畿地方、中国地方を東から西へ横断し、同日17時30分ごろには福岡県豊前市付近に再上陸した。
九州を抜けた後も複雑な動きを見せ、屋久島付近ではループを描くような進路を取った。
気象庁は、この台風について1951年以降で初めて西日本を東から西へ横断した台風と説明している。
2018年と2026年の共通点・相違点| 比較項目 | 平成30年台風第12号 | 2026年台風第15号 |
|---|---|---|
| 発生年 | 2018年 | 2026年 |
| 特徴 | 東から西へ日本列島を横断 | 日本の東海上から西進 |
| 上陸地点 | 三重県 | 茨城県南部 |
| 特異な進路の要因 | 偏西風の蛇行・寒冷渦・高気圧 | モンスーンジャイア・寒冷渦・優勢な高気圧 |
| その後の動き | 西日本を横断し複雑なループ | 本州を西進して日本海へ |
| 注目された点 | 西日本を東西逆方向に横断 | 茨城県への統計開始以来初の上陸 |
両者に共通するのは、通常とは異なる上空の風の配置と寒冷渦の影響を受けたことだ。
一方、2026年の台風15号では、モンスーンジャイアと日本の東海上の優勢な高気圧という大規模な循環も重要な役割を果たした。
つまり、同じ逆走台風という呼び名でも、気象条件が完全に一致するわけではない。
逆走台風の歴代一覧は存在する?ここで注意したいのは、逆走台風には気象庁が定めた正式な分類基準がないことだ。
そのため、歴代の逆走台風を公式に網羅した一覧が存在するわけではない。
日本で代表的な事例として挙げられるのは、次の2つだ。
- 2018年・平成30年台風第12号:三重県に上陸後、西日本を東から西へ横断した。
- 2026年・令和8年台風第15号:日本の東海上から西進し、茨城県南部に上陸した。
過去の台風を調べる際は、報道上の呼び名だけでなく、気象庁の台風経路図や位置表を確認することが重要だ。
【逆走台風と千葉豪雨の関係】2026年8月に何が起きた?
2026年の夏を振り返る際、台風15号とともに注目すべきなのが「令和8年8月千葉豪雨」だ。
台風15号が日本海で熱帯低気圧に変わった翌日から、関東地方では記録的な大雨が発生した。
8月13日から14日にかけて千葉県で記録的豪雨気象庁によると、令和8年8月千葉豪雨は、2026年8月13日から14日にかけて発生した大雨災害だ。
千葉県では線状降水帯が発生し、複数の地点で1時間降水量や3時間降水量の観測史上1位を更新した。
気象庁が公表した観測記録では、千葉の24時間降水量は367mm、1時間降水量は115mmに達した。
総降水量が300mmを超えた地点もあり、浸水被害や土砂災害が発生した。
台風15号と千葉豪雨は直接つながっていたのかこの点は誤解しやすい。
台風15号がそのまま千葉県に豪雨をもたらしたわけではない。台風15号は8月12日午前9時に熱帯低気圧へ変化している。
一方、気象庁の異常気象分析検討会は、台風15号の西進を含む8月前半の大気の流れと、千葉豪雨の発生環境を関連づけて分析している。
具体的には、次の要素が重なっていた。
- 日本の南海上に形成されたモンスーンジャイア
- 日本の東海上に停滞した優勢な高気圧
- 上空から南下した寒冷渦
- 房総半島付近へ流れ込んだ暖かく湿った空気
この環境下で上空の寒気と下層の暖湿気が重なり、大気の状態が非常に不安定になった。
加えて、関東内陸部で形成された冷気層と東から流れ込む暖湿気の間に局地的な前線が形成され、その周辺で線状降水帯が発生した。
気象庁の分析では、千葉県での線状降水帯の発生位置を数値予報モデルが十分に予測できなかったことも課題として挙げられている。
この事例が示しているのは、台風の中心が遠ざかった後も、周辺の大気の流れによって重大な気象災害が発生する可能性があるということだ。
【逆走台風の防災対策】進路が読みにくいときに取るべき行動
逆走台風への備えで大切なのは、一般的な台風と異なる方向へ進んでいるからといって、危険地域を自己判断しないことだ。
進路予報が変化する場合には、当初想定していなかった地域でも大雨や暴風の影響を受ける可能性がある。
1. 気象庁の台風進路予想を定期的に確認する気象庁は台風の実況と進路予報を定期的に発表している。
5日先までの進路・強度予報は6時間ごとに更新され、24時間先までの予報は3時間ごとに発表される。
特に注目したいのは、予報円だ。
予報円は、予報時刻に台風の中心が70%の確率で入ると予想される範囲を表す。
予報円の中心を結んだ線が、実際の進路になるとは限らない。
逆走台風のように複雑な進路を取るケースでは、予報円の範囲や更新による変化も確認したい。
2. ハザードマップで自宅周辺の危険を把握する台風が接近する前に、自宅や職場周辺の災害リスクを調べておく。
特に確認したいのは次の項目だ。
- 河川の氾濫による浸水想定区域
- 土砂災害警戒区域
- 低地や地下空間の浸水リスク
- 避難所の位置と避難経路
- 停電時に利用できる情報収集手段
自治体のハザードマップを確認し、複数の避難経路を考えておくことが望ましい。
3. 台風が通過した後も油断しない台風の中心が通過したからといって、すぐに安全になるわけではない。
大雨による河川の増水や土砂災害は、台風の通過後に発生することもある。
2026年8月の千葉豪雨は、台風15号が熱帯低気圧に変わった後に発生した。
こうした事例を踏まえ、台風が遠ざかった後も大雨警報や洪水警報、土砂災害警戒情報などを確認する必要がある。
4. 家庭で準備しておきたい防災用品停電や断水、交通機関の運休などに備え、家庭の防災用品を点検しておこう。
- 飲料水・非常食
- モバイルバッテリー
- 懐中電灯・予備電池
- 携帯ラジオ
- 常備薬・衛生用品
- 現金・身分証明書の控え
- 家族との連絡方法をまとめたメモ
避難が必要になってから準備を始めるのではなく、台風シーズン前から備蓄や避難先を確認しておくことが大切だ。
【プロの結論】逆走台風で最も警戒すべきなのは進路の変化だけではない2026年の台風15号が教えてくれたのは、台風の進路予測において、過去の典型的なパターンだけに頼ることはできないという事実だ。
日本の東海上から西進し、統計開始以来初めて茨城県に上陸した今回の事例は、偏西風、寒冷渦、高気圧、モンスーンジャイアが複雑に関係する気象現象だった。
加えて、その後の千葉豪雨は、台風の中心が遠ざかった後も災害リスクが残ることを示した。
防災の判断基準は、台風がどちらへ進んでいるかだけではない。
台風の進路、風の強さ、雨雲の動き、河川の水位、土砂災害の危険度を総合的に確認すること。
これが、異例の進路を取る台風から身を守るための基本となる。
【逆走台風】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:逆走台風とは何ですか?
逆走台風とは、通常の台風とは異なる進路を取り、日本付近で東から西へ進むような台風の通称だ。気象庁の正式な分類名ではなく、異例の進路を説明する報道上の表現として使われている。
Q2:2026年の台風15号はなぜ逆走したのですか?
日本の東海上に停滞した強い高気圧、日本の南海上のモンスーンジャイア、南下した上層寒冷渦などが複合的に影響したためだ。気象庁の2026年9月の分析でも、これらの大気の流れが西進の要因として示されている。
Q3:2026年の台風15号はいつ茨城県に上陸しましたか?
2026年8月11日20時ごろ、茨城県南部に上陸した。茨城県への台風上陸は1951年の統計開始以来初めてだった。
Q4:逆走台風は平成30年にも発生しましたか?
発生している。2018年の平成30年台風第12号は三重県に上陸した後、西日本を東から西へ横断した。寒冷渦と台風の相互作用が特徴的な事例だった。
Q5:2026年11月現在、台風15号はどうなっていますか?
台風15号チャンホンは、2026年8月12日午前9時に日本海で熱帯低気圧に変わっている。そのため、11月現在は活動中の台風ではない。最新の台風情報については気象庁の発表を確認したい。
Q6:逆走台風は通常の台風より危険ですか?
逆走台風だから必ず通常の台風より危険というわけではない。ただし、進路予測が難しくなる場合があり、想定外の地域で大雨や暴風の影響が出る可能性がある。進路だけでなく、雨量や風速、河川水位などを確認することが重要だ。
2026年の台風15号は、茨城県南部への統計開始以来初の上陸、本州の西進という異例の経過をたどった。背景には、偏西風の蛇行、寒冷渦、モンスーンジャイア、強い高気圧などが複雑に絡み合っていた。
また、平成30年台風第12号との比較からも分かるように、逆走台風には複数の発生パターンがある。過去の進路をそのまま次の台風に当てはめることはできない。
今後も気象庁の進路予想や防災情報を確認し、台風通過後の大雨にも備えることが重要だ。
主な根拠資料・参考情報
- 気象庁「令和8年夏を対象とした異常気象分析検討会の結果」
- 気象庁「令和8年8月千葉豪雨」
- 気象庁「気象業務はいま2019」
- 海洋研究開発機構(JAMSTEC)「なぜ台風12号はかつてないルートで日本を襲ったのか」
- 気象庁「台風情報の種類と表現方法」